上に出そうなものだと思ったが、尾根は牙のような岩ばかりで、その両側の岩壁にかじりついて、登ったり降りたりするので、尾根の向こう側はまだ見ることが出来ない。
岩壁の下は、深い底の方から、雪の急斜になって、手をゆるめればそれっきりだ、壁《ワンド》をはいずり下って、岩の上に出ると、またその岩というのがギザギザに欠けているから、石は落ちやすいし手がかりはなし、両手を広げて、コウモリみたいに岩に食いつくような格好で、登ったり降りたりするのはずいぶんたまらない。
もうこうなると、登路なんていうのはあてにはならない、先登のヘッスラーがはいずって行くから、すぐ後ろからロープに縛られて登って行くと、岩の向こう側は断崖で、行き止まりになっている、すると今度は逆もどりをして、フォイツが先登になって別の岩をよじ登る。Uchi《ウアヒ》 ! とか Chum《フム》 ucha《アハ》 ! なんて言葉が、飽きるほど聞かされた。Uchi は hinauf ! のスウィス語で、Chum ucha は Komm herauf ! である、がそれにつづいてガイドの間にくりかえされる言葉に至っては、この岩登りと同様に、私
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