広がりにこのクーロアールがすべっている、その間々には、急な岩角がまっ黒に背を出して、取っつけそうな斜面を、いくつにも隔てておる、私たちは、ヘッスラーの意見で、ずっと右寄りに、グロース・ラウテラールホルンの方に近いクーロアールを登って行く、まるでアリでもはって行くように。
いくら登っても雪ばかりで、右へ、右へと、岩に隔てられた道をとって、――左側はなおさらに急に鐫《え》ぐれているので、――もう足下になったシュレック・フィルンから、三時間半も登って、やっといくらか岩の現われた、山稜に近い急斜まで来た。この間には、ふりかえって朝日にきらめく山々を、撮影するために二、三度立ち休みしただけで、ろくに足を動かす余地もない急なクーロアールには、ゆっくりと腰をおろすような場所は少しもない。
岩角には、まだ氷が下がっている。私たちは手袋をはずして、いよいよ|岩登り《クレッテライ》をはじめた。洞穴のようにえぐれた窓の左をめがけて、雪の急斜に飛び出した岩の鼻にしがみつくと、ロープを出来るだけ延ばして、ヘッスラーがはいずってゆくのを、ただ見ていてもはらはらする、ずいぶんきわどい岩登りをやって、もうアレトの
前へ
次へ
全13ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
辻村 伊助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング