それが下手な鏝《こて》細工みたいに、桃色のまだらになってるからたまらない、なんだい君の顔は!
どうしたんだい、君の顔は! 冗談じゃない!
二人の声でふりむいたガイドは、声を合わせてウァッハッハと笑った、私たちもたまらなくなってウァッハッハと笑った、ウァッハッハはクーロアールに反響して、ゴーンと陰気にこだまをかえす、と、エコーにつれて、夏の短か夜はしらじらと明けかかる、もう午前五時であった。なだらかなフィルンはもういつのまにか足元になった。
もうフィンシュテラールホルンはシュトラールエックの尾根の上に、錐《きり》みたいにそびえていて、そしてその左に落とすアウトラインが、薄紅く光りだした、と思うとほとんど同時に、オックスや、そのアレトのうしろに、頭だけ見えるグリューンホルンにも、さっと朝日が反射した。私たちが一様にグレッチェルグラスをかけたのは、それからまもないことで、朝の日の溶け込んだ青空の下に、一面にまっ白な楯をついたクーロアールをよじ登るには、それなしには目がちらちらして、がまんにも歩けなかった。
頭の上には、雪のはげた山稜が仰がれる、そのギザギザにくずれ落ちた岩の裾から、末
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