すがのガイドも、こうなるとランターンがじゃまになるので、それに夜明けに間もなく、しらじら明けとまではゆかないが、空には星の数が減って、ふりかえると谷を隔てたオックスの上に、ピカッと暁の明星が光っている頃で、消したランターンはリュックサックにしまい込んで、両手にシュトックを握って、せっせとステップを切っては、一足ずつ高く高く迫り上がった。
もうこの頃であった、オックスからフィンシュテラールホルンへかけて、薄い山稜から斜面にかけて、次第次第に明るくなって、それを見つめていた目をそらして、初めてロープに縛られた仲間の人たちを見まわした時には、違った世の中で出っかしたように、変な感じが起こって来た、特にひどいのは近藤君である。
が無理もない、気の弱いものならびっくりして、クーロアールからまっさかさにころがり落ちたに相違ない、その時の近藤君の顔ときたら、友だちながらすっかり愛想がつきた、雪焼けで鼻の頭がまっ赤にただれて、ところどころは皮がむけて下の正味が顔を出しているその上に、塗った塗った監獄の塀だってああきたなくは塗らない、一面に雪焼けのおまじないに、グレッチェル・クレームをなすりつけて、
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