登山の朝
辻村伊助

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)杖《シュトック》を

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)いよいよ|岩登り《クレッテライ》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「火+暇のつくり」、第3水準1−87−50]
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 八月一日はブンデスタークだ、スウィス開国の記念日である。
 二階の寝室で目ざましがチリチリ鳴り出した、腕時計の針はちょうど午前一時を示している、いぎたなく寝込んでしまった近藤君をたたき起こして、隣の室に出ると、上からガイドの連中が降りて来た。外は、山稜にたち切られた空に星が冷たくまたたいて、風はないが非常に寒い。入口の水たまりは、むろん、厚く凍って歯をみがくどころの騒ぎではない。簡単な食事を無理やりにつめこんで、登山服に身をかためて、さて一ぷくたばこを吸った上、室の中から、もうロープで数珠つなぎになって、雪の上に降りた。ちょうど午前二時である。
 カチカチに凍りついた雪を踏みしめて、サック、サック、
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