一足ごとに杖《シュトック》をついて、星明かりに青く光る雪の斜面にかかった時、かつて覚えない緊張した気持ちになった。先登はヘッスラーで、次が私、フォイツは後殿《しんがり》である、ガイドの持ったランターンが、踏み固めた雪路に赤くにじんで、東へ東へと揺れて行く。昨日の跡が凸凹に凍っていて非常に歩きにくい、がそれがなかったなら、ぼーっと一面に螢光を放って、闇に終わる広い雪の斜面に、私たちは取るべき道を迷ったに相違ない。
星明かりに登る雪路は、昨日すべり降りた足路をたどったのであるが、道が違いはしないかと思われたほど非常に遠く、それに思ったよりも急でなく、どこまで登っても果てがないように感ぜられた。しかしそれは、比較するもののない夜道と、雪の上で非常に手間どったためであったろう。私は危ぶみながら立ち止まって見回した。ランターンの赤くにじむ幾尺のほかは、沙漠のような灰色のフィルンである。
雪をさんざん登りつめると、急な崖に取っついた、北へ切れれば、シュレック・フィルンから落ちる深い氷河で、雪の反射から黒い崖に移った私たちは、薄暗いランターンに足元の幾平方尺を照らしながら、石垣の塗土のように、岩
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