食べないんで、ちょっと休んだらもうがまんがしきれない、頂上は頭の上だが、そこにつづく鋭い山稜は切っ立てになってるから、ずいぶん骨が折れそうだ、四人とも言い合わせたように、リュックサックとにらめっこをしていたが、やせがまんなんかするやつは、ばかだということに評議一決して、氷の角によりかかって、一同早昼の食事にありつく。ところが、昨日今日雪の上で思い切りよくさらしぬいた顔の皮は、もとより尋常な皮膚のことで、ほてってほてってびりびりするし、こうなるとグレッチェル・クレームなどに至っては、いやが上にもきたなく見せるだけで、何の役にもたたない、それはいいが、件の顔で、肉をかじると、厚く切ったベイコンなんか、ほおばるほどには口が開けないし、無理にすると顔が火のつくように熱く※[#「火+暇のつくり」、第3水準1−87−50]《や》ける。
 お茶がわりにコニャックと雪をかじって、一息入れた後、いよいよここを発って、急な鋭い氷の山稜にとっついた。左はシュレック・フィルンまで切っ立ての崖で、右には深い深い底の方に、ラウテラール・グレッチェルがのぞかれる、このアレトは、千八百六十九年の夏、ここからすべり落ち
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