て微塵になったと伝えられる、かのエリオットの名をとって、エリオット・ウェンドリと呼ばれておる。
私たちは氷に足形を刻んで、静かにそのアレトをよじ登った。グロース・シュレックホルンの頂上は、氷柱が無数にたれ下がった岩で、もうすぐ頭の上になったが、時間はなかなかかかって、氷から柔らかい雪に変わった山稜を、胸をおどらせてかけ登った時、腕時計は、ちょうど午前十一時三十分を示しておった。
絶頂の氷の上に、近藤君と抱き合って喜んだのはこの時である、グリュッセを叫んで、ガイドたちと互いに堅く握手して、日の強い最高点に、躍り上がって喜んだのはこの時であった。
八月一日の、昼に近い太陽は、グロース・シュレックホルンの絶頂に、私たちの影をはっきりと描き出した。影はアレトに立ちきられて、三段に雪の上にすべっている。
底本:「日本の名随筆10 山」作品社
1983(昭和58)年6月25日第1刷発行
1998(平成10)年8月10日第26刷発行
底本の親本:「新編 日本山岳名著全集5」三笠書房
1976(昭和51)年発行
入力:門田裕志
校正:林幸雄
2003年5月17日作成
青空
前へ
次へ
全13ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
辻村 伊助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング