って、戸を締めないで置くもんだから不用心で仕様が無いって。」
「へーえッ! あの婆さんが、そう言った。※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]だ! 年寄に其様なことが、一々分る道理《わけ》が無いもの。」
「それでも、お母さんが、そう言ったって。お母さんですよ。違やあしませんよ。……あれで矢張し吾が娘《こ》に関したことだから、幾許《いくら》年を取っていても、気に掛けているんでしょうよ、……何うしても雪岡という人は駄目だから、お前も、もう其の積りでいるが好いって、お雪さんに、そう言っていたそうですよ。」
「へーえッ! そうですかなあ! 本当に済まないなあ!」私は真《しん》から済まないと思った。
「ですからお雪さんだって、あなたの動静《ようす》を遠くから、あゝして見ているんですよ。嫁《かたづ》いてなんかいやしませんよ。」
「そうでしょうか?」
「そうですよ。それに違いありませんよ……此の間も私の話を聞いて、お雪さん、独りで大層笑っていましたっけ……私が、『お雪さん、雪岡さんがねえ。時々私の家《ところ》へ来ては、婆やのように、おばさん/\と、くさやで、お茶漬を一杯呼んで下さいと言って
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