別れたる妻に送る手紙
近松秋江

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)風の音信《たより》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)砂|塵挨《ぼこり》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)屡※[#二の字点、1−2−22]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ずる/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

 拝啓
 お前――別れて了ったから、もう私がお前と呼び掛ける権利は無い。それのみならず、風の音信《たより》に聞けば、お前はもう疾《とっく》に嫁《かたづ》いているらしくもある。もしそうだとすれば、お前はもう取返しの付かぬ人の妻だ。その人にこんな手紙を上げるのは、道理《すじみち》から言っても私が間違っている。けれど、私は、まだお前と呼ばずにはいられない。どうぞ此の手紙だけではお前と呼ばしてくれ。また斯様《こん》な手紙を送ったと知れたなら大変だ。私はもう何《ど》うでも可《い》いが、お前が、さぞ迷惑するであろう
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