屹度お宮のことを言うのだろうが、何うしてそれが瞬く間に此の婆さんの家《ところ》にまで分ったろうか、と思って、首を傾けながら
「えゝ、少しゃそれに似たこともあったんですが、何うして、それがおばさんに分って?」
「ですから悪いことは出来ませんよ。……チャンと私には分ってますよ。」
「へえ! 不思議ですねえ。」
「不思議でしょう。……此の間お雪さんが柳町へ来た序《ついで》に、また一寸寄った、と言って、私の家へ来て、『まあ、おばさん。聞いて下さい。雪岡は何うでしょう、既う情婦を拵えてよ。矢張りまた前年《いつか》のように浜町か蠣殻町《かきがらちょう》らしいの。……あの人のは三十を過ぎてから覚えた道楽だから、もう一生止まない。だから愛想が尽きて了う。』ッて、お雪さんが自分でそう言っていました。……雪岡さん、本当に悪いことは言わないから淫売婦《いんばい》なんかお止しなさい。あなたの男が下るばかりだから。」と思い掛けもないことを言う。
「へーえッ……驚いたねえ! お雪が、そう言った。不思議だ! ※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]だろう。おばさん可い加減なことを言っているんでしょう。お雪
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