そうに聞いていたが、居なくなると言ったので初めて、稍《やや》同情したらしい笑顔になって、私の顔を珍らしく優しく見戍《みまも》りながら、
「本当に、一寸だったなあ。……そういうようなのが果敢き縁《えにし》というのだなあ!」
と、私の心を咏歎するように言った。私もそれにつれて、少しじめ/\した心地になって、唯、
「うむ!」と言っていると、
「本当にいなくなるか知らん? そういうような奴は屡《よ》くあるんだが、其様なことを言っても、なか/\急に何処へも行きゃしないって。……そうかと思っていると、まだ居ると思った奴が、此度行って見ると、もういなくなっている、なんて言うことは屡くあることなんだから。」と、長田は自分の従来《これまで》の経験から割り出したことは確だと、いうように一寸首を傾けて、キッとした顔をしながら半分は独言のように言った。
私は、凝乎《じっ》と、その言葉を聞きながら顔色を見ていると、
「その内是非一つ行って見てやろう。」という心が歴々《ありあり》と見える。
「或はそうかも知れない。」と私はそれに応じて答えた。
暫時《しばらく》そんなことを話していたが、長田は忙しそうであった
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