方をして、それに無言の答えをしていた。けれども何処から使者が行ったかは気が付いていないらしい。
 けれども、お宮はあの通り隠れると言ったから、本当にいなくなるかも知れぬ。若し矢張りいるにしても、いなくなると言って置いた方が事がなくって好い。無残々々《むざむざ》と人に話すには、惜いような昨夕《ゆうべ》であったが、寧《いっ》そ長田に話して了って、岡嫉きの気持を和《やわら》がした方が可い。と私は即座に決心して、
「例のは、もう居なくなるよ。二三日《にさんち》あと一寸《ちょいと》行ったが、彼女《あれ》には悪い情夫《おとこ》が付いている。初め大学生の処に嫁に行っていたなんて言っていたが、まさか其様《そん》な事は無いだろうと思っていたが、その通りだった。その男を去年の十二月から、つい此間《こないだ》まで隠れていたんだが、其奴がまた探しあてて出て来たから二三日中にまた何処かへ隠れねばならぬ、と言って記念に持っていてくれって僕に古臭いしごき[#「しごき」に傍点]なんかをくれたりした。……少しの間面白い夢を見たが、最早《もう》覚めた。あゝ! あゝ! もう行かない。」
 笑い/\、そう言うと、長田は興あり
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