戯は長田のしそうなことではない。……碌に銭《かね》も持たないで長居をするなどは、誰れに話したって、自分が悪い。それに就いて人は怨まれぬ。が、あの手紙を書いた長田の心持は、忌々《いまいま》しさに、打壊《ぶちこわ》しをやるに違いない。何ういう心であるか、余処《よそ》ながら見て置かねばならぬ。もし間違って、此方《こちら》の察した通りでなかったならば、其れこそ幸いだが。それにしても、他人《ひと》との間に些《ちょっ》とでも荒立った気持でいるのは、自分には斯う静《じっ》と独りでいても、耐《こら》えられない。兎に角行って様子を見よう。自家にいても何だか心が落着かぬ。
と、また出て長田の処に行った。
長田は、もう一と月も前《さき》から、目白坂の、あの、水田の居たあとの、二階のある家に越して来ていたから、行くには近かった。――長田は言うに及ばず、その水田でも前に言った△△新聞社の上田でも、村田でも、其の他これから後で名をいう人達も、凡てお前の一寸でも知っている人ばかりだ。――
長田は、丁度居たが、二階に上って行くと、平常《いつも》は大抵|此方《こちら》から何か知ら、初め口を利くのが、その時は、長田
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