り朽ちているのに、後から後からと蕾を付けて、根《こん》好く咲いているな、と思って、折々眼に付く度に、そう思っていたが、其れは既う咲き止んだ。
 六月、七月、八月、九月、十月、十一月と、丁度半歳になる。あの後《あと》、何うも不自由で仕方が無い。夏は何うせ東京には居られないのだから、旅行《たび》をするまでと、言って、また後を追うて此家に暫時《しばらく》一緒になって、それから、七月の十八日であった。いよ/\箱根に二月ばかし行く。それが最後の別れだ、と言って、立つ前の日の朝、一緒に出て、二人の白単衣《しろかたびら》を買った。それを着て行かれるように、丁度盆時分からかけて暑い中を、私は早く寝て了ったが、独り徹夜をして縫い上げて、自分の敷蒲団の下に敷いて寝て、敷伸《しきの》しをしてくれた。朝、眼を覚して見ると、もう自分は起きていて、まだ寝衣《ねまき》のまゝ、詰らなそうに、考え込んだ顔をして、静《じっ》と黙って煙草を吸っていた。もう年が年でもあるし、小柄な、痩せた、標致《きりょう》も、よくない女であったが、あゝ、それを思うと、一層みじめなような気がする。それから新橋まで私を送って、暫時汽車の窓の外に
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