とわ》にいた時分に、あんまり貧乏の苦労をさせられたお蔭で出来たんだ。」
 と、二三年来、鏡を見ると、時々それを言っていた。……そんなことを思いながら、フッと庭に目を遣ると、杉垣の傍の、笹混りの草の葉が、既《も》う紅葉《もみじ》するのは、して、何時か末枯《すが》れて了っている中に、ひょろ/\ッと、身長《せい》ばかり伸びて、勢《せい》の無いコスモスが三四本わびしそうに咲き遅れている。
 これは此の六月の初めに、遂々《とうとう》話が着いて、彼女《あれ》が彼の女中の心配までして置いて、あの関口台町から此家《ここ》へ帰って来る時分に、彼家《あすこ》の庭によく育っていたのを、
「あなた、あのコスモスを少し持って行きますよ。自家《うち》の庭に植えるんですから。」と、それでも楽しそうに言って、箪笥や蒲団の包みと一緒に荷車に載せて持って戻ったのだが、誰れが植えたか、投げ植えるようにしてあるのが、今時分になって、漸《よ》う/\数えるほどの花が白く開いている。
 あゝ、そう思えば、あの戸袋の下の、壁際にある秋海棠《しゅうかいどう》も、あの時持って来たのであった。先達て中|始終《しょっちゅう》秋雨《あめ》の降
前へ 次へ
全118ページ中86ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
近松 秋江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング