うに「欽哉々々。」と言っては、「そんな目算《あて》も無いことばかり考えていないで、もっと手近なことを、さっ/\と為《な》さいな!」と、たしなめたしなめした。本当に、自分は、今に、もっと良いことがある、今に、もっと良いことがある、と夢ばかり見ていた。けれども、私を空想家だ空想家だと言った、あのお雪が矢張り空想勝ちな人間であった。「今にあなたが良くなるだろう、今に良くなるだろう、と思っていても何時まで経っても良くならないのだもの。」と、あの晩|彼女《あれ》が言ったことは、自分でも熟※[#二の字点、1−2−22]《つくづく》とそう思ったからであろうが、私には、あゝ言ったあの調子が悲哀《みじめ》なように思われて、何時までも忘れられない。彼女《あれ》も私と一緒に、自分の福運《うん》を只夢を見ていたのだ。私は遂々《とうとう》其の夢を本当にしてやることが出来なかった。七年の長い間のことを、今では、さも、詰らない夢を見て年齢《とし》ばかり取って了った、と、恨んで居るであろう。年々ひどく顔の皺を気にしては、
「私の眼の下の此の皺は、あなたが拵えたのだ。私は此の皺だけは恨みがある。……これは、あの音羽《お
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