の秋くらい、斯うして斯様《こん》なに寂しい思いのするのは、初めて覚えることだ。何よりも一つは年齢《とし》の所為《せい》かも知れぬ。白髪《しらが》さえ頻りに眼に付いて来た。加之《それに》段々、予期していたことが、実際とは違って来るのに、気が付くに連れて、世の中の事物《もの》が、何も彼も大抵興が醒めたような心持がする。――昨夕《ゆうべ》のお宮が丁度それだ。あゝいう境遇にいる女性《おんな》だから、何うせ清浄《きれい》なものであろう筈も無いのだが、何につけ事物を善く美しゅう、真個《ほんと》のように思い込み勝ちな自分は、あのお宮が最初からそう思われてならなかった。すると昨夕から今朝にかけて美しいお宮が普通《あたりまえ》な淫売《おんな》になって了った。口の利きようからして次第に粗末《ぞんざい》な口を利いた。自分の思っていたお宮が今更に懐かしい――。が、あのお宮は真実《ほんとう》に去《い》って了うか知らん? ――自分は何うも夢を真実と思い込む性癖《くせ》がある。それをお雪は屡※[#二の字点、1−2−22]言って、「あなたは空想家だ。小栗風葉の書いた欽哉《きんや》にそっくりだ。」と、戯談《からか》うよ
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