と思った。
それでも何うも夜も落々《おちおち》眠られないし、朝だって習慣《くせ》になっていることが、がらりと様子が変って来たから寝覚めが好くない。以前|屡《よ》くお前に話し/\したことだが、朝|熟《よ》く寝入っていて知らぬ間に静《そっ》と音の立たぬように新聞を胸の上に載せて貰って、その何とも言えない朝らしい新らしい匂いで、何時とはなく眼の覚めた日ほど心持の好いことはない。まだ幼い時分に、母が目覚しを枕頭《まくらもと》に置いていて、「これッこれッ。」と呼び覚していたと同じような気がしていた。それが最早《もう》、まさか新聞まで寝入っている間《ま》に持って来て下さい、とは言われないし、仮令《たとい》そうして貰ったからとて、お前にして貰ったように、甘《うま》くしっくりと行かないと思ったから頼みもしなかった。が、時々|斯様《そん》なことを思って一つそうして貰って見ようかなどと寝床の中で考えては、ハッと私は何という馬鹿だろうと思って独りでに可笑くなって笑ったこともあったよ。
で、新聞だけは自分で起きて取って来て、また寝ながら見たが、そうしたのでは唯字が眼に入るだけで、もう面白くも何ともありゃし
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