う言って見ただけなのか、腹から出たとも口前《くちさき》から出たとも分らないような調子で言うから、
「……智慧を借りるッたって、別に好い智慧もないが、じゃ私が何処かへ隠して上げようか。」
と、女の思惑を察して私も唯一口そう言って見たが、此方《こちら》からそう言うと、女は、
「否《いや》! 何うしても駄目!」と頭振《かぶり》を掉《ふ》った。
「じゃ仕様がない。よく自分で考えるさ。……あゝ遅くなった。もう寝よう。君も寝たまえ。」と、言いながら、私は欠伸《あくび》を噛み殺した。
「えゝ。」と、お宮は気の抜けたような返事をして、それから五分間ばかりして、
「あなたねえ、済みませんが、今晩私を此のまゝ静《そう》ッと寝かして下さい。一昨日から何処の座敷に行っても、私身体の塩梅《あんばい》が悪いからッて、皆な、そう言って断っているの……明日の朝ねえ……はあッ神経衰弱になって了う。」と萎《な》えたように言って、横になったかと、思うと、此方に背を向けて、襟に顔を隠して了った。そうして夜具の中から「あゝ、あなた本当に済みませんが、電灯を一寸《ちょいと》捻って下さい。」
「あゝ/\。よくお寝!」
と、私は
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