、自分でも確乎《しっかり》せねばならぬ筈だ。況《ま》して自分が初めて手を付けた若い女じゃないか!」と、人の事を全然《まるで》自分を責めるように、そう言った。
お宮はお宮で、先刻《さっき》から黙って、独りで自分の事を考え沈んでいたようであったが、
「ですから私、何度逃げ出したか知れやしない。……その度毎に追掛けて来て捉《つかま》えて放さないんだもの……はあッ! 一昨日《おととい》からまた其の事で、彼方《あっち》此方《こっち》していた。」と、またしても太息《ためいき》ばかり吐《つ》いて、屈託し切っている。私には其大学生の江馬と吉村と女との顛末などに就いても、屹度面白い筋があるに違いない、と、それを探るのを一つは楽しくも思いながら、種々《いろいろ》と腹の中で考えて見たが、お宮に対《むか》ってはその上強いては聞こうともしなかった。唯、「で、一昨日は何と言って別れたの?」と訊ねると、
「まあ二三日《にさんち》考えさしてくれと、可い加減なことを言って帰って来た。……ですから、何うしたら好いか、あなたに智慧を借りれば好いの。……」と、其の事に種々心を砕いている所為《せい》かそれとも、唯私に対してそ
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