ていた。「お雪の奴、いま頃は何処に何うしているだろう? 本当に既《も》う嫁《かたづ》いているか。嫁いていなければ好いが、嫁いて居ると思えば心元なくてならぬ。最後《のち》には自分から私《ひと》を振切って行って了ったのだ。それを思えば憎い。が、元を思えば、皆《みん》な此方《こちら》が苦労をさしたからだ。あゝ、悪いことをした。彼女《あれ》も行末は何うなる身の上だろう? 浅間しくなって果てるのではなかろうか?」としみ/″\と哀れになって、斯うして静《じっ》としてはいられないような気がして来て、しばらくは、私達が丁度お宮等二人のように思われていたが、「いや/\お雪が、お宮と同じであろう道理が無い。自分がまた吉村であろう筈もない。私に、何うして斯ういう女を、終に斯様な処に来なければならぬようにするような、そんな無惨なことが出来よう!」と、私は少しく我れに返って、
「けれども其の人間も随分|非道《ひど》いねえ。そんなにして何処までも、今まで通りに夫婦《いっしょ》になっていてくれというほどならば、何故、宮ちゃんが其様なにして尽している間に、少しはお前を可愛いとは思わなかったろうねえ? お前が可愛ければ
前へ 次へ
全118ページ中67ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
近松 秋江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング