来ている間はよかったけれど、その内学校を卒業するでしょう。卒業してから学資がぴったり来なくなってから困って了って、それから何することも出来なくなったの。」
「だって可笑いなあ。君がいうように、本当に師範学校に行っていて卒業したのなら、高等の方だとすると、立派なものだ。そんな人が、何故自分の手を付けた若い娘を終《しまい》に斯様《こん》な処に来なければならぬようにするか。……十五で出て来て間もなくというんだから、男を知ったのもその人が屹度初めだろう?」
「えゝ、そりゃ其の人に処女膜を破られたの。」と、それを取返しの付かぬことに思っているらしい。
「はゝゝゝ。面白いことを言うねえ。もし尋常師範ならば、成程国で卒業して、東京に出てから、ぐれるということもあるかも知れぬが、今二十九で、五年も前からだというから、年を積っても可笑しい。師範学校じゃなかろう。……お前の言うことは何うも分らない。……けれど、まあ其様《そん》な根掘り葉掘り聞く必要はないわねえ。……で、一昨日《おととい》は何うして此処に来ていることが分ったの?」
「下谷に知った家があって、其処から一昨日は電話が掛かって、一寸《ちょいと》私
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