「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]と真個との見界《みさかい》の付かないような気持をさする女性《おんな》だった。年も初め十九と言ったが、二十一か二にはなっていたろう。心の恐ろしく複雑《いりく》んで、人の口裏を察したり、眼顔を読むことの驚くほどはしこい、それでいてあどけないような、何処までも情け深そうな、たより無気《なげ》で人に憐れを催さすような、※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]を言っているかと思うと、また思い詰めれば、至って正直な処もあった。それ故その身の上ばなしも、前後《あとさき》辻褄の合わぬことも多くって、私には何処までが真個なのか分らない。
お宮という名前も、また初めての時、下田しまと言った本当の名も、皆その他にまだ幾通かある変名《かえな》の中の一つであった。
「だから故郷《くに》は栃木と言ってるじゃないか。」お宮はうるさそうに言った。
「そうかい。……だって僕はそう聞かなかった。何時か、熊本と言ったのは※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]か、福岡と言っていたこともあったよ。……それらは皆知った男の故郷だろう。」
「そんなことは一々覚えて
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