ったの? ……そんなこととは知らず、僕は真実《ほんとう》に君を想っていた。――尤も君を想っている人は、まだ他にも沢山あるのだろうが――けれども、そういう男があると知れては、幾許思ったって仕方がない。……ねえ! 宮ちゃん! ……じゃ、せめてお前と、その人との身の上でも話して聞かしてくれないか。……もう大分遅いようだが、今晩寝ないでも聞くよ。私には扱帯《しごき》なんかよりもその方が好いよ。……私もそういうことのまんざら分らないこともない。同情するよ。……それを聞かして貰おうじゃないか。……えッ? 宮ちゃん! ……お前の国は本当何処なの?」私は、わざと陽気になって言った。
 何処かで、ボーン/\と、高く二時が鳴った。
 すると、お宮は沈み込んでいた顔を、ついと興奮したように上げて、私の問いに応じて口数少くその来歴を語った。
 一体お宮は、一口に言って見れば、単《ひと》えに※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]を商売にしているからばかりではない、その言っていることでも、その所作にも、何処までが真個《ほんとう》で何処までが※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]なのか※[#
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