了おうかなあ! ……あなたが屹度愛想を尽かすよ。……尽かさない?」うるさく訊く。
「何様《どん》なことか知らぬが尽かしゃしないよ、僕は君というものが好いんだから仮令これまでに如何《どん》なことをしていようとも何様な素姓であろうとも差支えないじゃないか。それより早く言って聞かしてくれ。宵からそう何や彼《か》に焦らされていては私の身も耐らない。」と言いは言ったが、腹では本当に拠《たよ》りない心持がして来た。
「じゃ屹度愛想尽かさない?」
「大丈夫!」
「じゃ言う! ……私には情夫《おとこ》があるの!」
「へえッ……今?」
「今……」
「何時から?」
「以前《もと》から!」
「以前から? じゃ法科大学の学生《ひと》の処に行っていたというのはあれは※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]?」私もまさかとは思っていたが、それでも少しは本当もあると思っていた。
「それもそうなの。けれどまだ其の前からあったの。」
「その前からあった! それは何様な人?」
先刻《さっき》から一人で浮かれていた私は、真面目に心細くなって来た。そうして腹の中で、斯ういう境涯の女にはよくあり勝ちな、悪足《わるあ
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