何うしよう? ……言って了おうか。」と一寸《ちょいと》小首を傾けたが、「言おうかなあ……言わないで置こうかッ。」と一つ舌打ちをして、「言ったら、さぞあなたが愛想を尽かすだろうなあ!」と独りで思案にくれて、とつおいつしている。私は、やゝ心元なくなって来た。
「何うしたの? ……私が愛想を尽かすようなことッて。何か知らぬが、差支えなければ言って見たら好いじゃないか。」私はその時|些《ちょっ》と胸に浮んだので、「はあ! じゃ分った! 私の知った人でも遊びに来たの?」と続けて訊いた。
「否《う》む!」と頭振《かぶり》を掉った。私も幾許《いくら》何でもまさか其様なことは無いであろうと思っていたが、あんまり心配そうに言うので、もし其様なことででもあるのかと思ったがそうでなくって、先ずそれは安心した。
「じゃ何だね? 待たして焦らしてさ! 尚おその上に唯困ったことがある、困ったことがある。……と言っていたのでは私も斯うしていれば気に掛かるじゃないか。役に立つようだったら、私も一緒に心配しようじゃないか。……何様《どん》なこと?」
「はあッ」と、まだ太息《ためいき》を吐いている。「じゃ思い切って言って
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