て、たゞ一寸《いっすん》逃れにお宮の処に行っていたかった。
四度目であったか――火影《ほかげ》の暗い座敷に、独り机によっていたら、引入れられるように自分のこと、お前のこと、またお宮のことが思われて、堪《こら》えられなくなった。お宮には、銭《かね》さえあれば直ぐにも逢える。逢っている間は他の事は何も彼も忘れている。私は何うしようかと思って、立上った。立上って考えていると、もうそのまま坐るのも怠儀になる。私は少し遅れてから出掛けた。
桜木に行くと、女中が例《いつも》の通り愛想よく出迎えたが、上ると、気の毒そうな顔をして、「先刻《さっき》、沢村から、電話でねえ。あなたがいらっしゃるという電話でしたけれど、他の者の知らない間に主婦《おかみ》さんが、もう一昨日《おととい》から断られないお客様にお約束を受けていて、つい今、お酉《とり》さまに連れられて行ったから、今晩は遅くなりましょうッて。あなたがいらしったら、一寸《ちょいと》電話口まで出て戴きたいって、そう言って来ているんですが。……」
私は、そうかと言って電話に出たが、固《もと》より「えゝ/\。」と言うより仕方がなかった。
女中は、商売
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