少し永く此の心持を続けていたいような気がして浮々《うかうか》と来合せた電車に乗って遊びに行きつけた新聞社に行って見た。
長田《おさだ》は旅行《たび》に出ていなかったが、上田や村田と一しきり話をして、自家《うち》に戻った。お宮が昨夜《ゆうべ》あなたの処へ遊びに行くと言った。それには自家を変らねばならぬ。変るには銭《かね》が入る。何うして銭を拵えようかと、そんなことを考えながら戻った。
それから二三日して長田の家《ところ》に遊びに行くと、長田が――よく子供が歯を出してイーということをする、丁度そのイーをしたような心持のする険しい顔を一寸して、
「此間桜木に行ったら、『此の頃|屡《よ》くいらっしゃいます。泊ったりしていらっしゃいます。』……お宮というのを呼んだと言っていた。……僕は泊ったりすることはないが、……お宮というのは何様《どん》な女《の》か、僕は知らないが、……」
その言葉が、私の胸には自分が泊らないのに、何うして泊った? 自分がまだ知らない女を何うして呼んだ? と言っているように響いた。私は苦笑しながら黙っていた。長田は言葉を統けて、
「此間《こないだ》社に来て、昨夜《ゆうべ
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