《どころ》かね。あれば仕合せなんだが。」
「じゃ遊びに行く。」
「…………」
「奥様がなくって、じゃあなた何様《どん》な処にいるの?」
「年取った婆さんに御飯を炊いて貰って二人でいるんだから面白くもないじゃないか。宮ちゃんに遊びに来て貰いたいのは山々だけれど、その婆さんは私が細君と別れた時分のことから、知っているんだから、少しは私も年寄りの手前を慎まなければならぬのに、幾許《いくら》半歳経つと言ったって、宮ちゃんのような綺麗な若い女に訪ねて来られると、一寸具合が悪いからねえ。屹度変るから変ったらお出で。」
 すると、「宮ちゃん/\」と、女中の低声《こごえ》がして、階段の方で急《いそが》しそうに呼んでいる。
 二人は少しはっとなった。
「何うしたんだろう?」
「何うしたんだろう? ……」二三秒して、「えッ?」と女中に聞えるように言った。「一寸《ちょいと》行って見て来る。」
 お宮は、そのまゝ出て行った。
 四五分間して戻って来た。「此の頃、警察がやかましいんですって。戸外《そと》に変な者が、ウロ/\しているようだから何時遣って来るかも知れないから、若し来たら階下から『宮ちゃん/\。』ッて
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