少し興を催して、
「性格! ……性格なんて、君は面白い言葉を知っているねえ。」と世辞を言った。――兎に角漢語をよく用いる女だった。
そうして私は、唯柔かい可愛らしい精神《こころ》になって、蒲団を畳む手伝いまでしてやった。
他の室《へや》に戻ってから、
「また来るよ。君の家は何という家?」
「家は沢村といえば分ります。……あゝ、それから電話もあります。電話は浪花のね三四の十二でしょう。それに五つ多くなって、三四十七、三千四百十七番と覚えていれば好いんです。」と立ちながら言って疲れて、顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》の辺《ところ》を蒼くして帰って行った。
私は、何だか俄かに枯木に芽が吹いて来たような心持がし出して、――忘れもせぬ十一月の七日の雨のバラ/\と降っていた晩であったが、私も一足後から其家《そこ》を出て番傘を下げながら――不思議なものだ、その時ふと傘の破れているのが、気になったよ。種々《いろん》な屋台店の幾個《いくつ》も並んでいる人形町の通りに出た。湿《しっ》とりとした小春らしい夜であったが、私は自然《ひとりで》にふい/\口浄瑠璃を唸りたいような気になっ
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