そうかと思っていましたわ。……私、文学者とか法学者だとか、そんな人が好き。あなたの名は何というんです?」
「雪岡というんだ。」
「雪岡さん。」と、独り飲込むように言っていた。
「宮ちゃん、年は幾歳《いくつ》?」
「十九。」
十九にしては、まだ二つ三つも若く見えるような、派手な薄|紅葉《もみじ》色の、シッポウ形の友禅縮緬と水色繻子の狭い腹合せ帯を其処に解き棄てていたのが、未だに、私は眼に残っている。
暫時《しばらく》そんな話をしていた。
それから抱占めた手を、長いこと緩めなかった。痙攣が驚くばかりに何時までも続いていた。私はその時は、本当に嬉しくって、腹の中で笑い/\静《じっ》として、先方に自分の全身を任していた。漸《やっ》と私を許してから三四分間経って此度は俯伏しになって、静《そっ》と他《ひと》の枕の上に、顔を以て来て載せて、半ば夢中のようになって、苦しい呼吸《いき》をしていた。私は、そうしている束髪の何とも言えない、後部《うしろ》の、少し潰れたような黒々とした形を引入れられるように見入っていた。
そうして長襦袢と肌襦袢との襟が小さい頸の形に円く二つ重なっている処が堪らなくな
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