らない。
その時は、多少《いくらか》纏まった銭が骨折れずに入った時であったから、何時もちょび/\本を売っては可笑《おかし》な処ばかしを彷徨《うろつ》いていたが、今日は少し気楽な贅沢が為て見たくなって、一度|長田《おさだ》の友達というので行った待合に行って、その時知った女《の》を呼んだ。そうするとそれがいなくって、他《ほか》な女《の》が来た。それが初め入って来て挨拶をした時にちらと見たのでは、それほどとも思わなかったが、別の間《ま》に入ってからよく見ると些《ちょっ》と男好きのする女だ。――お前が知っている通り私はよく斯様《こん》なことに気が付いて困るんだが、――脱いだ着物を、一寸触って見ると、着物も、羽織も、ゴリ/\するような好いお召の新らしいのを着ている。此の社会のことには私も大抵目が利いているから、それを見て直ぐ「此女《これ》は、なか/\売れる女だな。」と思った。
よく似合った極くハイカラな束髪に結って小肥な、色の白い、肌理《きめ》の細かい、それでいて血気《ちのけ》のある女で、――これは段々|後《あと》になって分ったことだが、――気分もよく変ったが、顔が始終《しょっちゅう》変る女
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