だった。――心もち平面《ひらおもて》の、鼻が少し低いが私の好きな口の小さい――尤も笑うと少し崩れるが、――眼も平常《いつも》はそう好くなかった。でもそう馬鹿に濃くなくって、柔か味のある眉毛の恰好から額にかけて、何処か気高いような処があって、泣くか何うかして憂いに沈んだ時に一寸々々《ちょいちょい》品の好い顔をして見せた。そんな時には顔が小く見えて、眼もしおらしい眼になった。後には種々《いろん》なことから自暴酒を飲んだらしかったが、酒を飲むと溜らない大きな顔になって、三つ四つも古《ふ》けて見えた。私も「どうして斯様な女が、そう好いのだろう?」と少し自分でも不思議になって、終《しまい》には浅間しく思うことさえもあった。肉体《からだ》も、厚味のある、幅の狭い、そう大きくなくって、私とはつりあいが取れていた。
 で、その女をよく見ると、「あゝ斯ういう女がいたか。」と思った。それが、その女が私の気に染み付いたそも/\だった。そうすると、私の心は最早《もう》今までと違って何となく、自然《ひとりで》に優《やさ》あしくなった。
 静《じっ》と女の指――その指がまた可愛い指であった、指輪も好いのをはめてい
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