きは明さないが、一度お前が後始末の用ながらに婆さんの処へ寄って、私の本箱を明けて見たり、抽斗《ひきだし》を引出して見たりして、
「まあ本当に本も大方売って了っている。あの人は何日《いつ》まで、あゝなんだろう。」と言って、それから私の夜具を戸棚から取出して、黴《かび》を払って、縁側の日の当る処に乾して、婆さんに晩に取入れてくれるように頼んで行ったことをも聞いた。
まあそういうようにして、ちょび/\書籍を売っては、銭《かね》を拵えて遊びにも行った。けれども、それでも矢張し物足りなくって、私の足は一処《ひとところ》にとまらなかった。唯女を買っただけでは気の済む訳がないのだ。私には一人楽みが出来なければ寂しいのも間切《まぎ》れない。
処がそうしている内に、遂々《とうとう》一人の女に出会《でっくわ》した。
それが何ういう種類の女であるか、商売人ではあるが、芸者ではない、といえばお前には判断出来よう。一口に芸者でないと言ったって――笑っては可けない。――そう馬鹿には出来ないよ。遊びようによっては随分銭も掛かる。加之《それに》女だって銘々|性格《たち》があるから、芸者だから面白いのばかしとは限
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