なって了った。お母《っか》さんと二人で種々《いろいろ》探して見たが遂に分らなかった。
 そんな寂しい思いをしているからって、これが他の事と違って他人《ひと》に話の出来ることじゃなし、また誰れにも話したくなかった。唯独りの心に閉じ籠って思い耽っていた。けれどもあの矢来の婆さんの家へは始終《しょっちゅう》行っていた。後には「また想い遣りですか。……あなたが、あんまりお雪さんを虐《いじ》めたから。……またあなたもみっちりお働《かせ》ぎなさい。そうしたらお雪さんが、此度は向から頭を下げて謝《あやま》って来るから。……」などと言って笑いながら話すこともあったが、あの婆《ひと》は、丁度お前のお母さんと違って口の上手な人でもあるし、また若い時から随分種々な目にも会っている女だから、
「本当にお雪さんの気の強いのにも呆れる。……私だって、あゝして四十年連れ添うた老爺《じい》さまと別れは別れたが、あゝ今頃は何うしているだろうかと思って時々呼び寄せては、私が状袋を張ったお銭《あし》で好きな酒の一口も飲まして、小遣いを遣って帰すんです。……私には到底《とても》お雪さんの真似は出来ない。……思い切りの好い女《
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