、平常《ふだん》略《ほ》ぼ知っている私の離別に事寄せてその場の私を軽く慰めるように言う。
「えゝ、何うもそう行かない理由《わけ》があるもんですから。」と詳しく事情を知らぬ饗庭に答えていると、また長田が口を出して、
「ありゃ、細君にするなんて、初めから其様な気はなかったんだろう。一寸《ちょいと》家を持つから来てくれって、それから、ずる/\にあゝなったんだろう。」
と、にべも艶もなく、人を馬鹿にしたように、鼻の先で言った。
私は、成程、男と女と一緒になるには、種々《いろん》な風で一緒になるのだから、長田が、そう思えば、それで可いのだが、饗庭が、仮令その場限りのことにしても、折角そう言って、面白くも無い、気持を悪くするような話を和げようとしているのに、また面と向って、そんなことを言う、何という言葉遣いをする人間だろう! と思って、返答の仕様もないから、それには答えず、黙ってまた長田の顔を見たが、お宮のことが忌々しさに気が荒立っているのは分り切っている。そう思うと、後には腹の中で可笑くもなって、怒られもしないという気になった。で、それよりも寧《いっ》そ悄気《しょげ》た照れ隠しに、先達ての、
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