った。今まで散々|種々《いろん》なことを、言い放題言わして置いたというのはお宮は何うせ売り物買い物の淫売婦《いんばい》だ。長田が買わないたって誰れが買っているのか分りゃしない。先刻《さっき》から黙あって聞いていれば、随分人を嘲弄したことを言っている。それでも此方《こちら》が強いて笑って聞き流して居ようとするのは、其様《そん》な詰まらないことで、男同士が物を言い合ったりなどするのが見っともないからだ。
お雪は今立派な商人《あきんど》の娘と、いうじゃない。またあゝいう処にも手伝ってもいたし以前|嫁《かたづ》いていた処もあんまり人聞きの好い処じゃなかった。あれから七年此の方、自分と、彼《ああ》なって斯《こ》うなったという筋道を知っているが為に、人を卑《さげす》んでそんなことを言うが、仮令見る影もない貧乏な生計《くらし》をして来ようとも、また其の間が何ういう関係であったろうとも、苟《かりそ》めにも人の妻でいたものを捉《つかま》えて、「彼奴も、一つ俺が口説いたら何うだろう。」とは何だ。此方で何処までも温順《おとな》しく苦笑で、済していれば付け上って虫けらかなんぞのように思っている。いって自分の
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