をそれまでに羨まれたと思えば却って長田の心が気の毒なような気も少しは、して、それから、そういう毒々しい侮辱の心持でしたと思えば、何だかお宮も可哀そうな、自分も可哀そうな気分になって来た。私はそんなことを思って打壊された痛《つら》い心と、面と向って突掛《つっかか》られる荒立つ心とを凝乎《じっ》と取鎮めようとしていた。他の二人も暫時《しばらく》黙って座が変になっていた。すると饗庭が、
「あゝ、今日会いましたよ。」と、微笑《にこにこ》しながら、私の顔を見て言う。
「誰れに?」と、聞くと、
「奥さんに。つい、其処の山吹町の通りで。」
すると長田が、横合から口を出して、「僕が会えば好かったのに。……そうすれば面白かった。ふゝん。」という。私は、それには素知らぬ顔をして、
「何とか言っていましたか。」
「いえ。別に何とも。……唯皆様に宜《よ》く言って下さいって。」
すると、また長田が横から口を出して、
「ふゝん。彼奴《あいつ》も一つ俺れが口説いたら何うだろう。はゝッ。」と、毒々しく当り散す。
それを聞いて、仮令口先だけの戯談《じょうだん》にもせよ、ひどいことを言うと思って、私は、ぐっと癪に障
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