ぞっ》とするような気がして、これはなるたけ障らぬようにして置くが好いと思って、後を黙っていると、先は、反対《あべこべ》に、何処までも、それを追掛《おっか》けるように、
「此の頃は吾々の知った者が、多勢|彼処《あすこ》に行くそうだが、僕は、最早あんな処に余り行かないようにしなければならん。……安井なんかも、屡《よ》く行くそうだ。それから生田《うぶた》なんかも時々行くそうだから、屹度安井や生田なんかも買っているに違いない。生田が買っていると、一番面白いんだが。あはゝゝゝ。だから知った者は多い。あはゝゝゝ。」と、何処までも引絡んで厭がらせを存分に言おうとする。生田というのは、自家《うち》に長田の弟と時々遊びに来た、あの眼の片眼悪い人間のことだ。……あんまり執拗《しつこ》いから、私も次第に胸に据えかねて、此方が初め悪いことでもしはしまいし、何という無理な厭味を言う、と、今更に呆れたが、長田の面と向った、無遠慮な厭味は年来耳に馴れているので尚お静《じっ》と耐《こら》えて、
「君と青山とは、一生岡焼をして暮す人間だね。」と、矢張り笑って居ろうとして、ふッと長田と私との間に坐っている右手の饗庭の顔を
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