にも出たと言っていたよ。」私は固《もと》より好い気持のする理由《わけ》はないが、何うせ斯うなると承知していたから、案外平気で居られた。すると、長田は、
「ふゝん、そりゃ其様なこともあるだろうが、知らない者なら幾許《いくら》買っても可いが、併し吾々の内に知った人間が買ったことが分ると、最早《もう》連れて来ることも何うすることも出来ないだろう! ……変な気がするだろう。」と、ざまを見ろ! 好い気味だというように、段々|恐《こわ》い顔をして、鼻の先で「ふゝん!」と言っている。
「変な気は、しやしないよ。」と避けようとすると、
「ふゝん! それでも少しは変な気がする筈だ。……変な気がするだろう!」負け吝《おし》みを言うな、※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]だろう、というように冷笑する。
それでも私は却って此方から長田を宥《なだ》めるように、
「可いじゃないか。支那人や癩病《かったい》と違って君だと清浄《きれい》に素姓が分っているから。……まあ構わないさ!」と苦笑に間切らして、見て見ぬ振りをしながら、一寸長田の顔を見ると、何とも言えない、執念深い眼で此方を見ている。私は、慄然《
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