可いと思ったが、誰れの処ということなく寂しいと思えば、遊びに行く私のことだから、……先達てから二週間ばかりも経って久振りに遊びに行くと、丁度其処へ饗庭《あえば》――これもお前の、よく知った人だ。――が来ていたが、何かの話が途切れた機会《はずみ》に、長田が、
「お宮は其の後何うした?」と訊く。
私は、なるたけ避けて静《そっ》として置きたいが、腹一杯であったから、
「もう、お宮のことに就いては、何も言わないで置いてくれ。」と、一寸左の掌《て》を出して、拝む真似をして笑って、言うと、長田は唯じろ/\と、笑っていたが、暫時《しばらく》して、
「あの女は寝顔の好い女だ。」
と、一口言って私の顔を見た。
私は、その時、はっ[#「はっ」に傍点]となって「じゃ愈※[#二の字点、1−2−22]」と思ったが強いて何気ない体《てい》を装うて、
「じゃ、買ったのかい?」と軽く笑って訊いた。
「うむ! ……一生君には言うまいと思っていたけれど、……此間《こないだ》行って見た。ふゝん!」と嘲笑《あざわら》うように、私の顔を見て言った。
「まあ可いさ。何うせ種々《いろいろ》の奴が買っているんだからね……支那人
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