なもので、此度は吉村とお宮との仲が、いくらか小僧いように思われた。
「へッ! 此の間、彼様《あん》なに悪い人間のように言っていたものが、何うしてまた、そう遽《にわ》かに可哀そうになった?」私は軽く冷かすように言った。
「……手紙の文句がまた甘《うま》いんだもの。そりゃ文章なんか実に甘いの。才子だなあ! 私感心して了った。斯う人に同情を起さすように、同情を起さすように書いてあるの。」と、独りで感心している。
「へーえ。そうかなあ。」と、私はあまり好い心持はしないで、気の無い返事をしながらも、腹では、フン、文章が甘いッて、何れほど甘いんであろう? 馬鹿にされたような気もして、
「お前なんか、何を言っているか分りゃしない。じゃ向の言うように、一緒になっていたら好いじゃないか。何も斯様《こん》な処にいないでも。」
そういうと女は、
「其様なことが出来るものか。」と、一口にけなして了う。
私は、これは、愈※[#二の字点、1−2−22]聞いて見たいと思ったが、その上強いては聞かなかった。
お宮のことに就いて、長田の心がよく分ってから、以後その事に就いては、断じて此方《こちら》から口にせぬ方が
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