て催促してもなか/\職人を寄越さない。寒いから障子を入れようと思えば、どれも破れている。それでも入れようと思って種々《いろいろ》にして見たが、建て付けが悪くなって何《ど》れ一つ満足なのが無い。
私はもう「えゝ何うなりとなれ!」と、パタリ/\雨滴《あまだれ》の落ちる音を聞きながら、障子もしめない座敷に静《じっ》として、何を為ようでもなく、何を考えようでもなく、四時間も五時間も唯|呆然《ぼんやり》となって坐ったなり日を暮すことがあった。
何日《いつ》であったか寝床を出て鉢前の処の雨戸を繰ると、あの真正面《まとも》に北を受けた縁側に落葉交りの雨が顔をも出されないほど吹付けている。それでも私は寝巻の濡れるのをも忘れて、其処に立ったまゝ凝乎《じっ》と、向《むこう》の方を眺めると、雨の中に遠くに久世山の高台が見える。そこらは私には何時までも忘れることの出来ぬ処だ。それから左の方に銀杏《いちょう》の樹が高く見える。それがつい四五日《しごんち》気の付かなかった間に黄色い葉が見違えるばかりにまばらに痩せている。私達はその下にも住んでいたことがあったのだ。
そんなことを思っては、私は方々、目的《あて
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