もなかったのですが、そんな人間はあっても大丈夫お園は自分の物になると私は思っていたのです」と、私はあくまでも信ずるようにいった。
 すると彼女は、一層|嵩《かさ》にかかって冷笑しながら、
「あんたはんだけ自分でそう思いやしたかて、お園さんあんたはんのところへ行く気いちょっともあらしまへんなんだんどすもの。……その人はもうお死にやしたけど」といって、私に語る言葉の端々が妙に粗雑《ぞんざい》になってくるに反して、その死んだ人間のことをいう時にはひどく思いやりのある調子になりながら、火鉢の傍に坐っている若奴の顔を振《ふ》り顧《かえ》って、
「なあ、三野村さんとお園さんのことでは何遍も揉《も》めたなあ」と、女あるじはその時分のことを思いうかべて心から亡くなった人の身を悲しむかのように、私が傍にいることなどてんで忘れてしまった風で、しんみりとなり、
「三野村さん死なはったのはついこの間のように思うてたら、もう一昨年《おととし》になる。そうやなあ、一昨年の夏のもうしまいごろやった。可哀そうやったなあ、あんなにお園さんに惚れていても死んでしもうたらしようがない」
 彼女はとうとう独り言をいい出した。
前へ 次へ
全99ページ中77ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
近松 秋江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング