霜凍る宵
近松秋江

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)懊悩《おうのう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)毎日|欝《ふさ》ぎ込みながら

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]《うそ》
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     一

 それからまた懊悩《おうのう》と失望とに毎日|欝《ふさ》ぎ込みながらなすこともなく日を過していたが、もし京都の地にもう女がいないとすれば、去年の春以来帰らぬ東京に一度帰ってみようかなどと思いながら、それもならず日を送るうち一月の中旬を過ぎたある日のことであった。陰気に曇った冷たい空《から》っ風《かぜ》の吹いている日の午前、内にばかり閉じ籠《こも》っていると気が欝いで堪えられないので、また外に出て何の当てもなく街を歩いていたが、やっぱり例の、女のもといたあたりに何となく心が惹《ひ》かれるのでそちらへ廻って行って、横町を歩いていると、向うの建仁寺《けんにんじ》の裏門のところを、母親が、こん
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