理を立てるわけにもゆかんようになった。それで今急にどうするということも出来んさかい、ここ半歳《はんとし》か一年待っていてもらいたい。その間に好い機《おり》があったらまたこちらから手紙を出すか、話をするかするさかい……」
「それで半歳か一年待ってくれというのですか」
「まあ、そういうてはるのどす。今急にあんたはんのところへ行けんことになったよって、それを私からあんたはんによう断りいうてくれるように、姉さんからくれぐれも頼んではりました。……そんなわけどすよって、あんたはんももう好い時節の来るまであまり気を急《せ》かんとおきやす。この話|急《せ》いたらあきまへん。私も御縁でこして及ばずながら仲に入って口をききました以上は決して悪い話には致しませんつもりどすよって」と、頼もしそうに私を慰めてくれて、
「それにしてもあの母親は、姉さんも、お母はんという人目先の欲の深い人どすいうてはったが、ひどいことをする婆さんどすなあ。ただ一時《いっとき》金貰うたかて見込みのない人やったらしかたがないやおへんか」繰り返してそれを呆れている。
「いろいろお骨折り有難うぞんじます」
と、私は主人の前に頭を下げて心
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