いたら、それに聴かすつもりで、そんなことを癇《かん》高い調子でいい続けた。そしてもし、男が来合わせているならそこへ顔を出せばちょうどいいと思った。
 すると、母親は、いつもに似ず私の剣幕が凄《すさ》まじいのと、近処隣りへ気を兼ねるので、いつもの不貞腐《ふてくさ》れをいい得ないで、私をそっと宥《なだ》めるように、
「まあ、あんたはんもそんな大きい声をせんとおいとくれやす。あんたはんも身分のある方やおへんか。あんたはんの心は私にもようわかってますよって、あの娘《こ》が病気が好うなったらまた会わせます」
「病気が好くなったら会わせますって、もう好くなっているじゃありませんか」私も少し声を低くした。「私が、どんなに、あなた方二人の身のことを長い間思って上げているか、――決して恩に被《き》せるのではないが――そのことを少し思ってみたなら、たとい今までのような商売をしていた者でも、私に※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]が吐《つ》かれるはずがない。……いや山科のお百姓の家《うち》に出養生をさしているの、いや南山城の親類が引き取ったのといって、みんな真赤な※[#「言+墟のつくり」、第4
前へ 次へ
全99ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
近松 秋江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング