水準2−88−74]じゃありませんか。あなたはよく金神様《こんじんさま》を信心しているが、何を信心しているのです」私の言葉はだんだん優しい怨《うら》み言《ごと》になって来た。
母親がそれについて何かいおうとするのを、押《お》っ被《かぶ》せるようにして言い捲《まく》った。
「ええ、ようわかってますよって、今夜はもう遅うおすさかい、また出直して来ておくれやす。あんたはんの気の済むようにお話しますよって」
「ああ、そうですか。それじゃまた近いうちに来ますからこんど、また、もう話すことはないなどと言っては承知しませんよ」そういって、私は、おとなしく振り返って帰ろうとすると、母親は、そういった口の下から、すぐ、
「勝手にせい。今度来たら寄せつけへん」と、棄てぜりふを、私の背後《うしろ》に浴びせかけながら、ぴしゃりと硝子戸を閉めた。
私は、「そらまた、あのとおりの悪たれ婆《ばばあ》だから始末にいけない」と心の中で慨歎《がいたん》しながら、後戻りをして、も一度戸を叩いて、近所へ恥かしい思いをさしてやろうかと思ったが、いつものとおり失望と悲憤との余り息切れがするまで精神が消耗しているので、そっと胸
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