色の白い、華奢《きゃしゃ》な円味《まるみ》を持った、頷《おとがい》のあたりがおとなしくて、可愛《かわい》らしい。私は心の中で、
「どんな男が、この私の生命《いのち》と同じい女に子を生ましたのだろう。なぜ私の子が生まれなかったか。そんなことが万一にもあるかも知れぬからこそ、一日も早く商売を廃めさしたかったのだ。いよいよいけないことになってしまった」
と、そんなことを思っていると、女は、
「その子を見せまよか」という。
「うむ、見せてくれ。どこにいる。男の子か女の子か」
「女の子どす。ほんなら伴《つ》れて来ます」と、いって女は立ち上がった。
どこから伴れて来るだろうと思って、私は女の背姿《うしろすがた》を睨《にら》むように見守っていると、彼女は重ね箪笥の上に置いてあった長い箱を取り下ろして、蓋《ふた》をあけて、その中から大きな京人形を取り出した。
「なあんだ、人を馬鹿にしている」私はそれで、一杯に詰まっていた胸がたちまち下がったように軽くなって、大きな声で笑った。
女もほほと、柔和な顔をくずして静かに笑った。
「ええお人形さんどっすやろ」
私は「うう」と、ただ答えたが、その人形や塗り
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